01.ご奉仕体験記

あかりさんの記録(その7)とけたあとの、しずけさ

前回で、あかりさんが生まれてはじめての波を越えた。

このシリーズも、今回でいったんおしまい。事後の、しずかな時間のことを書く。

汗だくの顔を、拭くのもかっこ悪い

波がおさまって、あかりさんの息が少しずつ穏やかになっていく。

僕はようやく顔を上げた。たぶん僕の顔、汗だくでひどいことになってる。慌てて手の甲で口元を拭ったけど、それもなんかかっこ悪くて、まあいいや、と思った。

汗で額に張りついた彼女の髪を、指でそっとよけてあげる。あかりさんは、まだぼんやりした目で僕を見て、へへ、と力なく笑った。その顔が、玄関で会ったときよりずっとやわらかくて、ああ、今日はいい仕事ができたな、と思う。

気の利いたことは、やっぱり言えない

彼女のとなりに戻って、乱れた体に毛布をかけ直して、そっと抱き寄せる。

やわらかいタオルケットの匂いと、彼女の体温が、ゆっくり混ざり合っていく。

こういうとき、気の利いた甘い言葉のひとつでも言えたらいいんだろうけど、僕には無理だ。頭が真っ白になって、結局「……大丈夫?」とか、間の抜けたことしか言えない。

あかりさんは僕の胸に頭を預けて、まだ整わない息のまま、ぽつりと言った。

「今日、来てよかった。……なんか、自分のこと、大事にしてもらえた気がします」

その一言が聞けたなら、今日のご奉仕は大成功だ。

うれしくて、でもそれをうまく言葉にできなくて、「うん」とだけ返した。うん、しか言えなかった。40半ばのおじさんが、語彙もなにもあったもんじゃない。かっこ悪い。でも、しょうがない。

これが、僕のやりたいこと

でも、これなんだよな、と思う。

気持ちよくさせることだけが目的じゃない。あなたはそのままで大事にされていい人なんだ、って、うまく言葉にできないぶん、体ぜんぶで伝えたい。あの最初のメッセージにあった「私みたいなの」なんて言葉、もう二度と自分に使わないでほしい。それが、僕のやりたいことの全部なんだ。

耳を澄ますと、いつのまにか雨音が小さくなっていた。窓を叩いていたざあざあが、ぽつ、ぽつ、に変わっている。

あかりさんの呼吸が、腕の中でゆっくり落ち着いていく。胸に伝わる鼓動も、少しずつやわらかくなった。

また、いつでもおいで

うとうとしはじめた彼女に、僕は何か声をかけようとした。でも、うまい言葉は出てこない。あかりさんは目を閉じたまま、満ち足りた顔で、小さく息をしている。

僕は結局、かっこよくなんてなれない。気の利いたことも言えないし、すぐそわそわするし、下心もあるし、舐めるのが好きすぎるちょっと変なおじさんだ。

それでも、この人が少しだけ自分を好きになって帰ってくれるなら、僕のかっこ悪さなんて、どうでもいい。

念のため言っておくと、僕とあかりさんのあいだに、恋愛感情はない。たぶん、これからもない。会えなくなっても、寂しいとかじゃない。

でも、それでいいんだ。日常じゃない時間をお互い持ち寄って、僕は好きなご奉仕で欲を満たして、あかりさんは肩の荷を下ろして、また自分の生活に戻っていく。それぞれ、また明日から生きていくための時間。そういう関係が、僕はけっこう好きだ。

だから最後も、重くならないように言った。「疲れたら、また連絡して。話も聞くし、ちゃんとご奉仕するから」。……「ちゃんとご奉仕するから」はちょっと必死すぎたかな、と一人で反省したけど、本音だから、まあいい。

お問合せフォームの一通から始まった、あかりさんとの記録は、これでおしまい。読んでくれて、ありがとうございました。(了)