あかりさんの記録(その4)「いい?」って、聞くしかできない
前回は、雨の金曜日にあかりさんと対面して、まずは彼女の話を聞いたところまで書いた。
ここからは、少し空気が変わっていく。
肩に、頭を預けられて
カップをテーブルに置いたとき、あかりさんが、そっと僕の肩に頭を預けてきた。
その重みで、心臓がまた跳ねた。
言葉はない。でも、なんとなく空気でわかる。今夜は、このさきに進んでもいいのかもしれない、って。
正直に書くと、この瞬間、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだ。嬉しい。すごく嬉しい。でも同時に、勘違いだったらどうしよう、こんなおじさんに触られるの本当は嫌なんじゃないか、とか、余計なことも全部いっぺんに押し寄せてくる。
そのくせ、下心はちゃんとある。あかりさんの髪から匂う柑橘に、雨と体温の混じった匂いに、正直もうそわそわしている。きれいな気持ちとやらしい気持ちが同居してるのが、僕のかっこ悪いところだ。
だから、聞く
こういうときこそ、勢いに任せちゃいけない。それだけは体で覚えている。
あかりさんの顔をのぞき込んで、目を見て、聞いた。「触れても、いい?」。
我ながら、色気もへったくれもない聞き方だと思う。もっと雰囲気で持っていける男もいるんだろう。でも僕は、これをどうしても飛ばせない。
あかりさんは少し頬を染めて、小さくうなずいた。「はい……お願いします」。かすかに震えた声だった。
「苦しかったり、やめたくなったら、いつでも言ってね。すぐ止めるから」。付け加えると、あかりさんの肩からまた少し力が抜けた。この一言で安心してもらえるなら、何回でも言う。
手が、ちょっと震えてる
まず、あかりさんの手をとって、指先に唇を寄せた。……のはいいんだけど、自分の手がちょっと震えてるのに気づいて、内心焦る。もう何年もやってるのに、なんで毎回こうなんだ。
手の甲、手首、腕の内側へと、ゆっくりたどっていく。肌はまだ雨で少しひんやりしていて、僕の唇の熱でじんわり温もっていく。
首筋に唇を寄せると、あかりさんが「んっ」と小さく息を漏らした。その湿った吐息が耳もとで聞こえて、僕は、ああもうだめだ、かわいい、と思ってしまう。
思ってしまうんだけど、ぐっとこらえる。ここで一気にいきたくなるのを、必死に抑える。焦らしてるのは彼女に対してだけど、半分は自分に「落ち着け」って言い聞かせてるんだ。
いじわる、って言われても
膝に手を置いて、内ももへ指先をすべらせる。ストッキングの、しゅ、という衣擦れが鳴った。
太ももの付け根に近づくたび、あかりさんの息が浅くなる。まだ触れない。布越しに手のひらの熱だけ伝えて、はあ、と息を吹きかける。
「シロネコさん……いじわる」。甘くとがらせた声で睨まれる。いや、いじわるって言われると弱いんだよな、と内心うろたえる。かわいすぎて、逆にこっちが照れる。
でも、焦らしてるのは意地悪したいからじゃない。あかりさんの体が、ちゃんと「欲しい」って思ってくれるのを待ちたいんだ。……とか言いつつ、正直、自分が焦らすのが好きなだけかもしれない。そういう欲深いところも、僕にはある。
「脱がすよ、いい?」。もう一度たしかめる。あかりさんが震える声で「うん」と応える。
その先のことは、次に書く。(続く)