あかりさんの記録(その2)会う前の、長いやりとり
前回は、お問合せフォームからあかりさん(34歳・都内在住)のメッセージが届いて、僕がうろたえながら返信した話を書いた。
今回は、会うまでのやりとりのこと。ここでは、いやらしいことは何も起きない。ただ、メッセージを重ねただけ。でも、この時間がいちばん大事だったと、今でも思う。
少しずつ、話してくれる
最初のうち、あかりさんのメッセージはどこか遠慮がちだった。
仕事は、まあまあ忙しいです。人に頼るのが下手で、いつも一人で抱えてしまって。 気づいたら、自分のことを大事にするのを、ずっと後回しにしていた気がします。
こういう文章を読むと、僕はまた胸が痛くなる。返す言葉を探すんだけど、気の利いたことなんて何も浮かばない。
後回しにしてきたぶん、これからゆっくり、自分を大事にしていきましょう。 まずは、こうして話してくれるだけで十分です。
そんな、当たり前のことしか書けない。もっと賢い人なら、もっと響く言葉をかけられるんだろうな、と思う。でも僕には無理だ。
「こんな私で、がっかりしませんか」
やりとりを重ねるうちに、あかりさんはだんだん、自分のことを話してくれるようになった。そしてある日、こう送ってきた。
正直に言うと、会うのが少し怖いです。 私、そんなに若くもないし、スタイルもよくないし…… 実際に会って、がっかりされたらどうしよう、って。
これを読んで、僕は思わずスマホに向かって「そんなわけないでしょ」と声を出してしまった。一人の部屋で。かっこ悪い。
でも、その勢いのまま返した。
がっかりなんて、絶対にしません。 というか、がっかりされるのを心配しなきゃいけないのは、こっちのほうです。 僕なんて、172センチ75キロの、腹の出た中年ですから。 会ってがっかりされたら、と思うと、正直こっちが怖いくらいです。
送ってから、正直に書きすぎたかな、と思った。でも、あかりさんから「ふふ、なんだか安心しました」と返ってきて、ほっとした。
約束の日が、決まった
何度もやりとりして、少しずつ距離が縮まって、やがて会う日が決まった。
それじゃあ、来週の金曜日、お仕事のあとで。 無理そうだったら、当日でも全然かまいません。ドタキャンも、いつでもどうぞ。
そう送ると、あかりさんは「ありがとうございます。……ちょっとだけ、楽しみにしてもいいですか」と返してくれた。
楽しみ、と言ってもらえたのは、素直に嬉しかった。恋愛的なドキドキとかじゃない。せっかく勇気を出して来てくれる人に、ちゃんと非日常を持って帰ってほしい、という気持ちだ。
正直、この時点で僕はもう、そわそわしっぱなしだった。当日までの一週間、何を着ていくかとか、部屋を片付けなきゃとか、そんなことばかり考えていた。落ち着かない中年男が一人、そわそわしている。
でも、あかりさんが肩の荷を下ろして帰れるなら、僕はどんな準備でもする気だった。
そして、金曜日が来る。(続く)